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福岡高等裁判所 昭和24年(つ)1307号 判決

被告人

山末幸太

外三名

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡地方裁判所小倉支部に移送す。

理由

職權で更に調査すると原審は「被告人杉本不二男は京都郡延永村農業調整委員会專任書記として主要食糧の供出、(「供述」とあるのは誤記と認むる)並にこれに伴う、(「これに供う」とあるのは誤記と認むる)報奬物資の配給保管等の業務を担當し、その他の被告人はいずれも同委員會附屬物資配給專門委員として報奬物資の配給等の業務を担當中、昭和二十四年四月二日午後七時頃から(中略)報奬物資配給割當委員会を開催し配給物資である放出綿布その他の衣料品を業務上保管中、翌四月三日午前三時頃被告人等は共謀して擅に放出綿二六二尺、久留米絣五反、正紺織二反半、風呂敷七枚、手袋五双、本綿硫紺染半反を持ち帰り以て橫領した」と判示し、これに刑法第二百五十三條第六十條を適用して被告人等を業務上橫領罪に問擬した。しかし原判決の援用する司法警察員作成の原審相被告人杉本不二男の第二囘供述調書中には、原判決認定の本件報奬物資の保管責任は同人にあるという趣旨の同人の供述記載があるけれども、どういう根拠で同人にそのような保管責任があるのか、又該物資に対する同人の占有がどういう理由で同人の職務上の占有になるのかを示す記載がないむしろ檢察官作成の原審相被告人杉本不二男の第一、二囘供述調書、同吉武彦一郞の第一囘供述調書及び司法警察員作成の牧野喜代治の第一囘供述調書によれば、延永村においては本件のような報奬物資は衣料品小賣店又は農業協同組合等で保管するのが例で、本件報獎物資も同村農業協同組合吉岡購買部が保管していたこと、原判示の配給專門委員会は京都地方事務所長より延永村長に通達された配給品目數量及び配給方法に関する指示に基いて配給割當を決定し、その割當決定に基いて村長が配給割當書を發行し、各受配者はその配給割當書と引換えに衣料品小賣店又は農業協同組合より割當物資を購すること。しかるに被告人等は原判示の配給專門委員会を開催した際同村農業協同組合吉武購買部に保管中の本件報獎物資を配給割當の便宜上一時借受けて保管中その一部を橫領したことが認められる。かように本件報奬物資は原審相被告人杉本不二男その他被告人等が本來保管していたものではなく、又その配給割當をするには必ずしもこれらの物が報奬物資を保管占有する必要があるともいえないのであつて、たまたま配給の便宜上一時これを借受けて占有しても、これらの者の業務上占有するものとは認められない。從つて他に上司の命令又は慣習等によつてこれらの者が該物資を占有していたことについて更に審理を盡した上でなければ、原判決に判示するような業務上橫領の事実を認定することができないにかかわらず、たやすくこれを業務上橫領と認定した原判決には結局理由不備の違法が存することになるから原判決はこの点において破棄を免れない。

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